光を掴んだその先に。




「Aか?Bか?C……おいおい、まさかD飛ばしてEまでいってねえだろうな」


「…そもそもDってなんだよ」


「俺だって知らねえよ動揺が止まらねんだ黙ってろ」



思わず笑ってしまった。


静かな病室、この男とこんなにもゆっくり会話を交わしたことはもしかすると初めてかもしれない。

いつもおやっさんは忙しい人で、ちらっと寄っては声をかけてくれるような人だったから。



「…まぁ、だが。」



ふーっと一息吐いた男は、そこまで怒っているわけではなさそうだった。

てっきり1発は殴られるとばかり思っていた。


それなのにどこか安心しているような空気すら持てる。



「俺は今まで、お前に対して“絃の兄”だと言ったことは1度もない」



そうだ、この男は。

俺をいつも必ず名前で呼んでいた。


絃を世話してるときだって周りは”優しいお兄ちゃん“だと言ってくるが。

“世話かけて悪いな絃織”と、必ずそう言ってくれていた。



「そしてお前だって俺を“父さん”と呼んだこともなかった」



あぁ、その通りだ。


でも義母のことは“母さん”と呼んだ。


それはそう呼んで欲しいと、彼女からの最後の願いだったからだ。

病弱なあの女性は生まれる我が子にそう呼ばれる前に、この世を去ると分かっていたのだろう。


だから俺はそう呼んでいた。



「…母さんには、怒られるかもしれないな」


「いいや。美鶴は誰よりもお前の幸せを願ってたよ」



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