光を掴んだその先に。
母親の面影
シャカシャカシャカ───。
慣れた手付きでお茶を立てる男。
スーツ姿と茶道、どこかアンバランスな組み合わせすら気にならないくらいにスムーズ。
「飲んでみろ」
「い、いただきます」
「“お先に頂戴いたします”」
「お、お先に頂戴いたします…」
サラッと直された挨拶を復唱しつつ、味を確かめる。
まろやかな茶葉の香り、ふわりと口内に伝わる舌触り。
茶碗をくいっと持ち上げて反動で戻せば、上唇の周りに髭のように泡が付いてしまっていたのだろう。
目の前の男はくっくっと珍しく笑った。
「た、たいへん美味しゅうございました…」
これは間違っていなかったらしい。
畳に指先をコツンと付けて、ぎこちなく頭を下げながら言ってみた。
顔を上げると正座した男はもう1度微笑んでくれる。
「まぁ、茶道はすぐできるようになるだろ。俺は半日で覚えた」
「…それ那岐だからだよ」
この人って苦手なことないのかな…。
なんでも軽やかにこなしてしまうから、逆に怖くも思えてくる。
「泡が多い」
「駄目だ、時間かけすぎて旨味を消してる」
「ちから入れすぎなんだよ馬鹿野郎」
まぁ予想通り私は半日では覚えられなかった。