光を掴んだその先に。




『俺を殺せぇぇーーー…!!!』



そのまま男が再び拳銃を手にしたならば、正気ではない動きで誰彼かまわず向けるだろう。

だからまだほんの少し残る理性に似た何かが必死に『殺してくれ』と繰り返しているのだ。


呂律も回っていない口調で、掠れた声で、まるで嘆き悲しむように。



『ころ……して…くれ……、』



でなければ息子を殺してしまう───男の瞳は最後、確かに父親だった。


精神をも病んでしまい、ここにいる息子以外の全員を女子供かまわず皆殺しにして。

こんな大罪人となってしまった父親が『息子だけは助けてくれ』と頼んでいる。


頼む、頼む、と小さな啜り泣きが聞こえた。



『絃織、……目ぇつむってろ』


『でも…っ』


『いいからつむってろッ!!!』



この人とは昔からの知り合いで、弟みたいな存在だといつかの父は嬉しそうに語っていた。

だから自分の名前も知っているのだ、きっと。


天鬼 剣。


那岐組と天鬼組に分かれた2つの大きな組織は、いつしか対立するようになった。



『…俺を恨め、絃織。』



ふっと気を失う寸前、泣きそうな顔をした男とひとつの銃声は同じタイミングで鳴った───。



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