光を掴んだその先に。
「山の畑の桑の実を───…」
あれ、そのあとなんだっけ。
えーっと……思い出せそうで思い出せない。
というか、この童謡は施設のみっちゃんにも歌ってもらったことないのに。
「小篭に摘んだはまぼろしか───…」
その続きを歌ったのは私ではなかった。
低い声、だけど耳にスッと届いてくれる心地いい音。
この人って歌が上手なんだ…なんて聞き入ってしまう。
「…だろ?」
「那岐も知ってるの…?」
「…俺も昔、よく歌ってたんだ」
優しく微笑んだ彼の髪が夜風に揺れた。
そんなにも優しい顔を見たのは初めてかもしれない。
慈しむような眼差し。
それは何よりこの時間を大切にしているかのような。
「んむっ!わ、えっ、」
すると那岐は私の唇に触れたかと思えば、ぐいっと親指の腹で少々乱暴に何かを拭う動きをさせた。
もしリップとか付けてたら簡単に取られてしまってるはずだ。
「死守しろ、いいな」
「え、」
「じゃねえと俺がそいつを殺しにいく」
「物騒すぎるよっ!なんのこと…?」
これは「うん」って言わないと駄目な雰囲気だ…。
いまの穏やかな空気感が、一気に殺気染みたものに変わってしまっている。