光を掴んだその先に。




「つうか、指一本触れさせねえっつったばっかだろうが」


「えっと、あのー…、」


「いいから分かったと言え」


「わ、わかった…!」



コクコクと深いうなずきと共に答えた。

すると満足そうに、しかしどこか眉間にシワを寄せている顔が目の前。



「あとスカート短すぎんだよ。膝下まで伸ばせ」


「え、元からあの長さだよ。それにもっと短くしてる子もいるし…」


「ならジャージでも下に履いとけ」


「やだよ!ダサいもんそんなのっ」



え、急にどうしたんだろうこの人…。

なんかいつもの那岐じゃないっていうか、こんなこと言う人だったんだって驚きのほうが大きい。



「死人が出るかダサいかだったらどっちがいいんだよ」


「なんで死人が出るの!?」


「…そういう仕様だ」


「どんな仕様だ!!」



お酒に酔ってるわけでもなさそうだし…。

でも沈黙が続くよりは楽しくて良い気もした。

それにこうして話していると、昨日のことが少しだけ忘れちゃえるから。



「っていうか那岐こそ明日から車から出ないでねっ!」


「なんでだよ」


「なんでも…!!毎回毎回キャーキャーうるさくて堪らないっての!」


「そもそもお前が出なかったからだろ」


「明日からちゃんと出ますよーだっ!」



もし初めてのキスがこの人だったら。

きっとここまで落ち込んではいないんだろう、なんて。


そんなことを思ってしまった。



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