光を掴んだその先に。
それが作られた笑みだということ、少年は知っていた。
その眼差しはこの先も絃にだけは向かわせたくないと。
そのために自分はここにいるのだと。
男は気持ちのわるい愛想笑いを浮かべると、背中を向けて遠退いてゆく。
『チッ、大罪人の息子がよ』
『養子になったからって調子乗りやがってガキが』
ペッと、中庭に吐き捨てられた唾。
そんなものを見て赤ちゃんはまた泣き出してしまうから。
『ぅぎゃぁぁぁ……っ』
『よしよし。俺がいるからね』
ここは絃が住むには汚すぎる世界だ。
だけど、絃だけが絃織にとって唯一の光。
『大丈夫だよ絃。兄ちゃんが…俺が、絶対にお前だけは守るよ』
そのときは何ひとつ疑ってなんかいなかった。
その気持ちだけで、本当に守れるような気がしていた。
『夕やけ小やけの赤とんぼ───…、負われて見たのはいつの日か───…、山の畑の桑の実を───…』
小篭に摘んだはまぼろしか───…。
この童謡は実際あまり好きじゃなかった。
どこか哀しくて儚くて、どうしようもないくらいに寂しい気持ちになるから。
それでもこれくらいしか少年は知らなかった。
『あ、…寝た』
静かな夜。
月の綺麗な夜は縁側に座って赤子を両腕にしっかりと抱き、子守唄を聴かせるようにしていた。
そんな2人だけの幻想的な時間が絃織にとっても大好きなもの。