光を掴んだその先に。
『な、ぎ!』
『…兄ちゃん、ね』
『なぎっ!』
それから絃は言葉を少しずつ話せるようになって、よちよちと歩けるようになって。
『俺の名前は“なぎ いおり”』なんて真面目に教えてしまった自分を何度か責めた。
“あに”ではなく、“なぎ”として覚えてしまったらしい。
『それだと俺が絃を“あまき”って呼び捨てするのと一緒なんだよ?』
『なぎっ』
『うん、ぜんぜん通じてなくて嬉しいよ』
『なぎっ!』
なにがそんなに面白くて楽しいのかさっぱりだ。
絃が初めて覚えた言葉は、“パパ”でも“ママ”でも“まんま”でもなく。
“なぎ”、だった───。
『うわぁぁぁんっ』
珍しく泣いている。
言葉や行動で気持ちを伝えることが出来るようになったはずだから、ここまで泣くことは少なくなっていたというのに。
すぐに少年は駆け付けた。
『…あぁ、なるほどね』
湯上がりの男たちは上半身裸といった姿でズラズラと歩いてくる。
9歳になる絃織であれば、2歳となった絃をひょいっと抱き上げることなど簡単。
そのまま見えないように、日の当たらない静かな部屋へ向かった。
『あんなのシールだと思えばいいんだよ絃。見なければ怖くないから』
『しーる…?ぺたぺた?』
『そう。ペタペタ』
ここはやっぱり絃が住むには窮屈すぎるとしても、絃織が絃と一緒にいたいのだ。
ごめんね、と小さく謝って一緒の布団に入る。
さっきは煙草の匂いに加えて、刺青も追加されてしまっていたから余計に駄目だった。