光を掴んだその先に。
『決めた。俺は絶対に刺青もしないし、煙草も吸わない』
でもここにいると煙草の匂いはどうしても移っちゃうんだよなぁ。
何かいい方法はないかなぁ。
寝息に変わりそうなお腹を優しく叩きながら少年は考えた。
『……あ。』
良いことを思いついた。
煙たい匂いを消せるくらいの良い香りが広がればいいだけだ。
そんなものを人間自体が出すことは出来ないから、ここは道具に頼るしかない。
『香水?』
『うん、おやっさんが使わなくなったものとかでいいんだ』
『…ちょっと待ってろ』
男は一瞬なにかを考えて、ガサゴソと箪笥の引き出しを漁った。
使い古してもいなければ真新しいわけでもなく、若干中身の減っている小瓶を差し出してくる。
『これをやる』
『…おやっさんって、結構かわいい趣味してるんだね』
『俺のじゃない』
楕円形の小瓶は、中身がうっすらとピンク色をしていた。
それは頭(かしら)である男が持つには違和感がある。
どう考えても女物の香水を差し出してきた義理の父親は、ふっと笑った。
『美鶴のだ』
『…母さんの…?』
『あぁ、あいつはよくこれを付けてた。少し付けるだけで匂いがかなり持続されるらしくてな』
気に入ってたんだ───、
男は思い返すように、優しい顔をしてぽつりと放った。