10憶で始まった結婚は○○だった
「夫婦になった俺達が、理由もなく別々で食事をするなんて。そんな事、ダメだろう? 」

 
 ゆっくりと歩み寄って来るティケルを、ファリサはムッとした目のまま見ていた。

 ファリサの傍に来ると、ティンケルはそっと微笑んでくれた。

「今日初めて会ったばかりだ。お互い、何も知らないじゃないか。一緒に食事でもしならが、お互いを知ってゆく。それもいいと思う」

 
 ムッとした目を向けていたファリサが、そっと視線を落とした。


 そんなに優しくしないでよ。
 10憶で買われてきただけなんだから…。

 ファリサはそう自分に言い聞かせた。


「食事はここに運んでもらう。遠慮することはない、ここはお前の家なのだから」


 それだけ言うと、ティケルは部屋を出て行った。

「…お金が欲しくて結婚したんでしょう? …あの人と一緒…お金が欲しくて、お母さんを殺した…あの人と…」


 ギュッと拳を握りしめたファリサは、ちょっと怖い目をしていた。





 しばらくして。

 ブッドルが夕食を部屋に運んできてくれた。

 豪華な厚切りのステーキに、新鮮サラダ、綺麗におりつけてある総菜、そして食後のデザートに果物が用意されている。
 飲み物はスパークリングワインと、アルコールが入っていないシャンパンとお水が用意された。

 美味しそうなロールパンとクロワッサンからは、焼き立てのとても良い匂いが漂てくる。


 ファリサは並べられた料理に驚いた顔をしていた。 

 
 こんな料理…食べた事ないけど…。
 お城では当たり前だと思われ。
 自分とは世界が違うのだというわけで…。


 驚いた顔をしているファリサに、グラスにシャンパンをついで渡してくれたティケル。

 ハッとしてファリサは差し出されたグラスを受け取った。

「乾杯しよう。俺達の結婚に」

 ティケルの手にも同じグラスにシャンパンがつがれていた。


 こんな自分と結婚して乾杯してくれるの?
 10憶で買った事に乾杯していると…思われ…。
 仕方ないか。
 10憶でも渡さないと、こんな自分となんて結婚してくれる人はいないから…。

 
 カチン。
 グラスが重なった…。


 ティンケルはグッとシャンパンを飲んだ。
 ファリサは一口ずつゆっくりと飲んでいた。


 
 前菜の総菜からゆっくり食べ始めたファリサ。

 ティケルもゆっくりと食べ始めた。

 さすが王族の人は、食べ方も上品で姿勢もよい。
 ファリサもぺリシアからテーブルマナーは教わっていて、上品に食べている。

 片目で食べているファリサは、視界が狭く見えていない物のあるようだ。
 それに気づいたティケルが、見える位置に置いてくれている。

 視界が狭いファリサは、その事にあまり気づいていないようだ。

 
 片目でお肉を切っていファリサは、何となく切りずらそうにしていた。

 そんな様子を見ていたティケルは、傍にいたブッドルに目配せをした。

 ブッドルはそっとファリサの傍に歩み寄った。


「ファリサ様。ちょっとよろしいですか? 」
 
 そう言って、ブッドルはファリサのお肉を丁寧に切ってくれた。

 見えやすいように右寄りにお肉を置いてくれたブッドルを、チラッと見たファリサ。


「どうぞ、お召し上がり下さいませ」

 こくりと頷いたファリサは、ゆっくりと食べ始めた。


 気を使わせることをしてはいけない。
 10憶で買われて来ただけなのだから…。

 申し訳ない気持ちが込みあがってきて、ファリサは自分にそう言い聞かせた。
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