10憶で始まった結婚は○○だった
ぐっすり眠っているファリサは、ベッドに寝かせても起きなかった。
そっと隣に横になったティケルは、ファリサの寝顔をそっと見つめた。
「…ファリサ。…随分と、綺麗になったんだな。びっくりしたよ、俺の想像以上だったから…」
起こさないように、ファリサの前髪に触れたティケルは愛しそうな目でファリサを見つめた。
「忘れてたっていいよ。…これから、幸せになれればいいんだから…」
すやすやと眠ているファリサ。
寝ている顔はまだ子供のようで、可愛い。
そんなファリサを見ながら、ティケルも眠りについた。
今日も特に夫婦の意営みはない。
少しだけ昨日より距離が近いだけだった。
翌朝。
先に目を覚ましたのはティケルだった。
ファリサを見つめたまま眠ったティンケルは、背を向ける事なくファリサの方を見たまま眠っていた。
まだぐっすり眠っているファリサを見ると、なんだか幸せな気持ちを感じたティケルは起こさないように先にベッドから出ようとした。
だが。
ギュッとパジャマを握っているファリサの手に気づいた。
その手の甲には古くなった痣が残ている。
そして、ぱじゃまの隙間から見える鎖骨にも何かのすり傷のような跡が残っているのが見えた。
傷跡を見ていると、ズキンと胸に痛みを感じて。
ファリサを起こさないように、そっと傷跡に触れてみたティケル。
(何勉強なんてしているの! さっさと食事の用意をしなさい! )
怖い声で怒鳴り声が聞こえた。
(なにをしているんだ! )
(あ…あなた。今日は、どうしてこんな時間に? )
(お前、ファリサに虐待していたんだな? )
(虐待だなんて、そんな事していないわ。これは、ファリサが言う事を聞かないからよ)
(言い訳するな! お前とは離縁だ! )
(何を言っているの? どうしてそんな事…)
(うるさい! )
(あなた…私を捨てるの? )
(捨てていない。元々、お前とは籍を入れていない。ファリサは、私だけの子供だ。連れてゆく! )
(ちょと待って、あなた! )
ギュッと掴んでいたファリサの手の力が強くなったのを感じたティケル。
「…ファリサ。…そうだったのか。…やはり、あの条件には深い事情があったんだ…」
掴んでいるファリサの手に、そっと手を重ねたティケル…。
「もう大丈夫だ。誰も、お前の事を傷つけたりしないから安心しろ」
包み込むようにティケルがファリサの手を握りしめると、ちょっとだけファリサの表情が和らいだような気がした。
その後。
ファリサは目を覚ましてまだベッドに寝ていたことに驚いていた。
ティケルの姿はもうなく、先に起きたのだと思い慌てて身支度を整え洗面を済ませたファリサ。
ティンケルはもう朝食を済ませて執務室へ行ってしまったようだ。
ファリサは用意された朝食を「いらない」と言って食べなかった。
運んできたブッドルは、どこか体調でも悪いのかと心配をしていたが「何でもありません」と言って片づけてもらった。
特にお腹が空いているわけでもない。
別に食べなくてもなんともない。
ファリサはそう思った。
今日もまた一日が始まる。
ファリサはお妃教育の続きを。
ティケルは執務室にこもって仕事をしていた。
こうした生活がしばらく続くことになった。