10憶で始まった結婚は○○だった
「随分とご無沙汰でしたね、ケイン先生」

 ソファーで向かい合って座ったサーチェラスは、変わらぬ笑顔でケインに話しかけた。

「申し訳ございません。色々と立て込んでおりました故に、暫く対応できませんでした」
「いいえ、お気になさらず。それより、今日は先生にお伺いしたい事がござます」

「なんでしょうか? 」

 笑顔をのままサーチェラスはじっとケインを見つめた。
「率直に言いますね。ミネルの事ですが、彼女は生きていますね? 」

 一瞬ドキッとした目をしたケインだが、冷静な表情を崩さないままサーチェラスを見ていた。

「いいえ。ミネル様は、25年前に亡くなられております」
「それは、嘘です」

「いえ、本当です。それが証拠に、ミネル様はずっと25年の間見つからないのですから」
「はい、そうですね。でも、ミネルが見つからない事が亡くなったという確証にはなりません」

 
 珍しく食い下がって来るサーチェラスに、ケインはちょっと驚いていた。

 ミネルが生きているのではないか? と、何度もサーチェラスはケインに尋ねてきた。
 
 しかし今日のサーチェラスは、まるでミネルが生きている事を確信しているかのように言ってくる。
 今までとは違う余裕のある目をして…。


「先生。私はミネルがあの火事で亡くなったとは、思っておりません。ミネルにそっくりな子がいます。現れたときは、ミネルかと思いました。ですが、よく見ると違いますので。きっと、ミネルが産んだ子供だと思ったのです。何かの事情があり、ミネルは表に出てこれない。そう思っているのです」
「そう言われましても…」

「先生。この器を調べて下さい」

 そう言って、砂糖の入った器をテーブルの上に置いたサーチェラス。

「これは、どうされたのでしょうか? 」
「この中にはきっと、毒薬が入っています」

「毒? 」
「はい。私の事を殺そうとしているのですね」

「それは、誰なのですか? 一大事じゃないですか」
「いいえ、私はその人に殺されても何も文句は言えません。きっと、深く傷つけて来たのだと思います。そしてその人は、私がミネルを殺したと思い込んでいるのです」

「何故そんな事を? 」
「私がミネルの多額な資産を、受け取っているからですね」

「それは…夫である国王様が受け取るのは、当然ことですから」
「ええ、そうですよ。でも、できれば誤解を解きたいと思っているのです」

「誤解とは、どうゆう事でしょうか? 」
「私が、ミネルから多額の資産を受け取るために。ミネルを殺したと、誤解をされているようなので。その辺りの事を、きちんとお伝えしたいと思っているのです」

 
 ケインは答えに詰まり砂糖の入った器に目をやった。

 その器はケインにも見覚えがある。
 王室に診察に行っていた時、サーチェラスの部屋に置いてあったのを覚えている。
 お気に入りの器だと言って、診察の後に嬉しそうにお茶を入れてくれた事があった。
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