10憶で始まった結婚は○○だった
院長室を出て、サーチェラスは1階ロビーまで降りてきた。
ロビーでは診察を待っている患者が多くいる。
「先生、有難う。もう痛くなくなったよ」
小さな女の子の声に、何となく目を向けたサーチェラス。
少し遠くに、包帯を頭に巻いた痛々しい姿の小さな女の子と母親が一緒にいる。
「良かったわね、無理しないでゆっくり休んでね」
女の子に優しく対応している白衣の女医。
女性にしては背が高く、綺麗なブロンドのボブヘヤーで長い前髪が片目を隠している。
大きめのマスクで顔が半分隠れいているが、片側だけ見える目は優しそうな目をしてる。
右手だけ手袋をはめて、何だか痛々しそうな姿で、医師と言うより患者のように見える。
「有難う、セレンヌ先生」
元気な挨拶をして、女の子を母親と一緒に帰って行った。
女の子と母親を見送った後、セレンヌと呼ばれた女医は診察室へ戻るために歩いて来た。
正面を向いたセレンヌをみたサーチェラスは息を呑んだ。
長い前髪で片目を隠しているが、隠された片目は眼帯が当てられ、顔半分はマスクで隠されている。
首元が隠れるタートルネックの服を白衣の下に来ていて、病院のユニホームのようなブルーのズボンに白いスニーカー。
見るからにどこか痛々しい姿のセレンヌ。
そんなセレンヌを見ていると、サーチェラスは胸がキュンとなった。
遠目で見ていたセレンヌが近づいてくるのを見ていると、鼓動が高鳴ってゆくのを感じたサーチェラス。
「セレンヌ先生」
不意に声がして、サーチェラスはハッとなった。
セレンヌに声をかけたのは、ぺリシアだった。
ぺリシアは親しそうに笑いかけて、セレンヌに歩み寄って行った。
ぺリシアを見たセレンヌは嬉しそうに微笑んだ。
何か楽し気に話しながら歩いて行くぺリシアとセレンヌを見ていると、サーチェラスはモヤっとした気持ちが込みあがってくるを感じた。
なんでこんな気持ちに…。
あの女医はセレンヌと言う名前なのか…。
随分と痛々しそうな姿をしていたが、どこかで見覚えがある。
分からない感情が込みあがって、サーチェラスは混乱していた。
夕方になりお城に戻って来たサーチェラスに、ブッドルは偶然聞いてしまったファリサの電話の内容を話した。
「ファリサのお母様ですか? 」
「はい。お母さんと、ハッキリ仰られておりました」
「そうでしたか。ファリサには、お父様しかいらっしゃらないとお聞きしておりましたが。お母様がいらっしゃるのですか」
「しかし、とても気になる事がございます」
「気になる事ですか? 」
「はい。ファリサ様は、お母様にぺリシア様と結婚するようにお話しされておりました」
結婚と聞いて、サーチェラスは病院で親し気にぺリシアと話していたセレンヌの事を思い出した。
まさか…あの人がファリサの母親?
だとしたら…
「国王様、どうかなさいましたか? 」
「あ、いいえ。…一度、ぺリシアさんにその辺りの事を確かめてみます。もしファリサにお母様がいらっしゃるのであれば、ちゃんとご挨拶をさせて頂きたいと思いますので」
「そうですね、その方が宜しいかと思います」
病院でのぺリシアは、結婚式の時よりとてもラフで、セレンヌに歩み寄ったぺリシアはとても親しげだった。
ミネルも女性にしては長身だった。
セレンヌも背の高い女性。
そして2人共通するのは医師である事。
ミネルが生きていたとすれば、今でも医師を続けていても不思議ではない。
もしかして灯台下暗しといわれるように。一番近くを見通していたのだろうか?
国立病院であれば、ケインが匿うにはとても良い場所である。
なんとなく、空白だった25年の謎が繋がってきたような気がしたサーチェラス。