10憶で始まった結婚は○○だった

 ティケルはそのままサロンまで歩いて来た。

 1階の奥にあるサロンは、食堂とリビングになっている。
 食事をした後、ここでだんらんを楽しんだりお茶を飲んだりくつろぐ場所であり、来客対応の場所でも使われる。

 ティンケルがサロンに来ると、来客用のソファーに偉そうな格好をして座っている一人の女性がいた。

 年増の派手なメイクをして着飾った貴婦人。
 キツイ目をして近寄りがたい顔つきの女性。
 派手はパープルの踝まで長いワンピースに赤いハイヒールを履いている。
 首にはキラキラしたダイヤのネックレス。
 指には無数の指輪をはめている。

 見る感じに派手なちょっと気がふれたような女性にも見える。


「あら、皇子様が来て下さるなんて光栄ですわね」

 怪しい笑みを浮かべた女性は、まるで魔女のような顔をしている。
 
 そんな女性をティンケルは怪訝そうに見ていた。


「貴女がウィーヌさんですか? 」
「ええ、そうよ。私はウィーヌ。ファリサの母親であり…国王様の下許嫁だった女よ」

 ウィーヌ。
 25年前にサーチェラスの許嫁だったが、結婚することが出来ず他の貴族と結婚した女。
 
 結婚後もお城によく来ていたと言われている。
 ここ20年以上は、お城に来てはいなかったが…。

 ティンケルは立ち止まったままじっとウィーヌを見ている。

 この女のどこがファリサの母親なんだ?
 嘘も見え見えだ。
 
 だが…子の声には聞き覚えがある。
 時々、ファリサの傷跡の向こうから聞こえてきた声だ。
 
 こいつが…ファリサを虐待していたのか?


「皇子様、酷いじゃないですか。娘の結婚式に、何故母親である私が呼んでもらえないのですか? 」
「そんな事はしらん。ファリサには、父親しかいないと聞いているからな」

「まぁ、酷いですわ。ファリサったら、自分の過去がバレてしまうのが怖いのかしら? 」

 はぁ? なんだそれ?

 呆れたように目を座らせたティンケル。

 ウィーヌは怪しく微笑みながら立ち上がり、ティンケルに歩み寄って来た。

「皇子様。もしかして、何もお聞きになっていらっしゃらないのですか? ファリサの本当の姿」
「何が言いたいのだ? 」

「ご存じないようですね。仕方がりませんね。私が教えてあげますわ」

 フン! と、鼻で笑いを浮かべて見下し眼をティケルに向けたウィーヌ。

「ファリサは、魔女なんですよ」
「魔女? 」

「ええ、ファリサは突然怒り出すのです。そして、なりふり構わず周りを焼き殺してしまいます。私の主人も、ファリサに焼き殺されてしまいました。そのせいで、私は一人でずっとファリサを育ててきたのですよ。いつ殺されるか、ビクビクしていましたわ」

 
 気持ちが悪いほどの嘘だ。
 ファリサがそんなことするわけがない。
 やったのは…お前だろう? 

 そう思ったティケルだが、顔には出さなかった。


「皇子様。実は、私にはもう一人子供がいましたの。女の子で、ファリサの姉です。その姉も…ファリサに殺されました。部屋に火炎瓶を入れられて、危うく火災になるところだったのですよ。何とか助けようとしましたが、全身やけどで姉は亡くなってしまったのです。いう事をきかないと、ファリサに焼き殺されてしまいますので。ずっと怯えておりましたの。きっと、今は大人しいと思いますけど。そのうち本性を現しますわよ」

 フフッと笑うを浮かべたウィーヌ。

「話しはそれだけか? 」
「え? それだけとは? 」

「そんな事を言う為に、わざわざ来たのか? 」
「そんな事って、皇子様のみを案じて忠告に参りましたのに」

「そうか。では俺からも、忠告させてもらう」

 ん? と、ウィーヌはティンケルを見た。

「悪いが、俺はアンタの知られたくない秘密を知っている」

 ん? とした顔をしていたウィー布表情が一瞬怯んだ。
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