10憶で始まった結婚は○○だった
「ファリサが怪我をしたのは、あの先生と引き合わせるためだったのだと私は思うのです」
「そうですか…」
「話せるようになるまで、待っています。私も、25年前のあの火事の真相にやっと辿り着けました。きちんとケジメをつけたいと思っています」
「分かりました。…少し時間を下さい…」
「はい、待っています」
診察を終えたケインはそのまま病院へ戻って行った。
ケインが帰ってしばらくすると目を覚ましたファリサ。
目が覚めて、お城に戻て来ている事に驚いたが、サーチェラスの部屋にいる事にもっと驚いたファリサ。
すぐに自分の部屋に戻ろうとしたファリサだが、サーチェラスが動かない方がいいと言って引き止めた。
「何も着にしなくていいですから、ここでゆっくり休んで下さい。元気になるまで、私がずっと見ていますから」
「そんな事…」
「そうさせて下さい。お願いします」
ファリサの手を握って、サーチェラスは愛しい目で見つめた。
ちょっと可愛くない顔をしたファリサだが、とりあえずサーチェラスの言うとおりにする事にした。
なんでこんな展開になるのだろうか?
複雑な気持ちのまま、ファリサはサーチェラスのお茶に使っている砂糖の事を思い出した。
あの中に…アレを入れて数日経過している。
毎日飲んでいるお茶の中に少しずつ含まれている…。
どうしよう…。
やはりアレは処分するべきだろうか?
迷ったファリサは、そっとベッドを出た。
そのまま寝室を出てきたファリサは、テーブルの上に置いてある砂糖の入った器を見た。
ちょっとふらつく足取りでテーブルに歩み寄ったファリサは、砂糖の入った器を手に取った。
中を見ると砂糖の量が減っている…。
どうしよう。
このままでいいの?
そう自分い問いかけたファリサは、何となくモヤっとした罪悪感が込みあがってきた。
(あなたのお父さんは、とても素敵な人。お母さんは、とっても幸せだったわ)
セレンヌは嬉しそうに言っていた。
あの人がお母さんを殺したんだ。
そう思っていたのは…きっと…悲しみと悔しさに押しつぶされるのが、怖かったからだ…。
ウィーヌに監禁され、やっと自由になれたけど。
悲しくて、悔しくて…そんな時に、火事の話を聞いてセレンヌは殺されそうになった…あの人に殺されそうになったんだ。
そう思事で自分を奮い立出せたファリサ。
これは…私が飲んでしまおう…。
そして終わらせよう。
それがいい…
そう思ったファリサは、傍にあるカップにお茶を注いだ。
そして砂糖の器をあけて、ドバっと多量に砂糖をお茶の中に注いだ。
カチャッ。
ドアが開いてサーチェラスが戻ってきた。
「おや? 起きていたのですか? 」
サーチェラスはファリサが砂糖の器を持っているのを目にして、ちょっと驚いた目をした。
「お茶が飲みたかったのですか? それなら言ってくれれば、温かいお茶を持って来ますよ」
カップに注がれたお茶の中に、多量の砂糖が入っているのを見たサーチェラスはファリサが何をやろうとしたのかピンときた。
「こんなにお砂糖を入れたのですか? これでは甘すぎますよ」
「これは…」
ギュッと口元を引き締め、ファリサはサーチェラスを見た。
「私…」
ギュッと拳を握りしめたファリサ。
そんなファリサの手を、サーチェラスはそっと握った。
「もういいですよ。知っていましたから、このお砂糖の中の事」
え? どうして?
驚いた目をしたファリサに、サーチェラスはそっと微笑んだ。
「貴女がこのお砂糖に何かを入れに来た時、私は寝室にいたのです。外出しておりましたが、予定が早く終わりましてね。ちょっと疲れたので、休んでいたのです。誰かが入ってきたようだったので、様子を見ていました」
「…知っていたのですか? 私が…殺そうとしていた事…」
「はい。そうされても、仕方がないと思っていますので。何も責める気はありません。ただ…貴女を犯罪者にする事はできません。貴女が望むなら、私は喜んで死を選びます。でも、どうしてもやり遂げたいことがあるのです。それを成し遂げるまで、もう少し生きる事を許してもらえませんか? 」
なにを言っているの?
殺されてもいいなんて…。
私が勘違いしていただけなのに…。
本当は分かっていた…でも…誰かを憎まないと生きて行けなかった…。