10憶で始まった結婚は○○だった
 目と目が合うと、ファリサの綺麗な紫色の瞳にティケルはドキッとした。
 左目を眼帯で覆っていても、ファリサはとても綺麗な顔立ちをしている。
 目はクールな切れ長の目をしているが、顔全体を見ていると、まるで天使のような神秘的で優しいエネルギーを感じる。
 見ていると、そっくりではないがどこかサーチェラスと似ているように見えるのは気のせいなのだろうか?
 そんな思いが溢れてきたティケル。

 そっとファリサの頬に手を添え、ゆっくりと唇を近づけて行くティケル…。

 ファリサはそっと目を閉じて、ちょっとだけ息を呑んで待っていた。

 ふわりと柔らかく優しいティケルに唇がファリサの唇と重なった。

 軽く重なっただけの唇からは、とても暖かいエネルギーが伝わって来る。
 体の奥の方まで染みわたって来るようで…
 緊張して固くなっていたファリサの表情も少しだけ柔らかくなった。


 唇が離れると。
 ティケルはちょっとだけファリサに微笑みを向けた。
 ファリサは照れているのか、ほんのりと頬を赤くしてまた伏し目になっていた。


 拍手が響いて祝福の鐘が鳴り響いて。
 大聖堂から鳴り響く祝福の鐘は、城下町にも聞こえている。



 お城から聞こえてくる鐘の音に、城下町も人達も「おめでとう」とお祝いの言葉を贈りながら拍手をしていた。




 お披露目のパレードは行われない事から、鐘の音を聞いてお祝いするしかできない城下町の人達だが、ずっと結婚どころか恋愛の噂もなかったティケルがようやく落ち着いてくれた事にほっとしていた。


 結婚式が終わるとぺリシアは早々に帰って行った。
 サーチェラスはゆっくりお城で食事でもと、誘ったが「この後、来客の予定があるので」と言って帰ってしまった。

 ファリサとは少し話していたが「幸せになるんだよ」と何度も繰り返して言っていた。

 ファリサは結婚式の後は、黒いワンピースに着替えて地味な格好をしている。
 だが地味な格好をしていてもお城に着いた時よりも、ずっと綺麗に見える。


 
 
 ぺリシアを見送って、ファリサはお城の中に戻ってきた。


 ファリサが玄関から入ってくると、サーチェラスが待っていた。

「お見送りは終わりましたか? 」

 いつもの優しい笑顔で話しかけてくるサーチェラスに、ファリサはちょっとビクッと肩を竦ませていた。

「ファリサさん。今日からは、私も貴女の父親です。困ったことがあればいつでも私を頼って来て下さいね」
「…はい…恐れ入ります…」

「そんなに固くならないで下さい。今までずっと、このお城には女性が少なかったので、貴女が来てくれてとても嬉しいのですよ。家族になれたのですから、気を楽にして下さい」

 
 キュッと口元を引き締めて、ファリサは黙てしまった。

 そんなファリサを見て、サーチェラスは何か悲しい過去でも背負っているのではないかと感じ取った。

「ファリサさん」


 ファリサの名前を呼んだサーチェラスは、そっとファリサの右手をとった。
 
 ファリサの手はとても細く骨ばっていた。
 そして、手の甲にはちょっと古くなっているが何かでぶたれたような痣が残っている。

 その痣に触れたサーチェラス。
 
 痣に触れられると、ファリサはビクッと小さく肩を竦めた。

 痣に触れるとギュッと締め付けられる痛みが、サーチェラスに伝わってきた。
 

(あんたは余計な荷物! 家の中なんかで寝れるわけないでしょ! )

 怖い女性の怒鳴り声がファリサに襲いかかって来る…。
 
 バシッ! と、鞭のようなもので殴られたファリサは、そのまま外に放り出されてしまった。
 外は寒くて、ファリサは黒っぽいブラウスに黒いロングスカートだけで薄着のまま。
 寒くて身を縮めているファリサを、怖い顔の女性が見下し目で見て大笑いしている。

(あんたは道具。将来役に立つからねぇ。…あんたは、王室に嫁いでもらうの。そして、王家の財産を全てこの私に貢いでもらうわ)

 恐ろしい目でファリサを睨んでいる女性。

 その女性にサーチェラスは見覚えがあった。

 黒髪に魔女のような鋭い目をして、中年太りのような体格。
 派手なパープルのドレスに首にはダイヤのネックレス、耳には大きな金色のイヤリング、指にはルビーやダイヤやサファイヤの指輪をはめて飾るだけ飾っている。


 ハッとして、サーチェラスは目を開けた。

 サーチェラスに触れられていたファリサの手は、痣が綺麗に消えている。

 ファリサは不安そうな目をしてサーチェラスを見つめた…。
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