貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
「ジン様。
今宵は物語でも読み聞かせましょうか。
私でも読める言語の本があったので」
「読んだ」
昼間図書館で、読み聞かせによさそうな本をせっかく探してきたのに、ジンはアローナが最後まで言わないうちに、本のタイトルだけ見て、そう言ってくる。
「読んだな、その本」
「では、こちらを」
とくすんだ金のような色の厚い本をアローナは出してきたが、ジンはまた、
「読んだ」
と言う。
「では、こ……」
「読んだ」
今度は出す前に言われた。
ジンはアローナがサイドテーブルに積んでいた本を見、
「うちの図書館から持ってきたんだろ。
読んでるに決まってる」
と言う。
「えっ。
あの蔵書をすべて読まれたのですか?」
「すべてではない。
三分の一は読んだ。
物語の類はみな読んだので、なにを持ってきても無駄だ」
ええーっ、とアローナは眉をひそめる。
「だがまあ、取りこぼしもあるかもしれないから、お前は私の読んだ本ばかり持ってきたということになるな。
我々の趣味嗜好が似ているということだろうか」
とジンが言うので、
「じゃあ、今度は裁縫か、料理の本でも持ってきます~」
と力なく言ったのだが、
「そういうのも読んだ」
とトドメを刺される。
もう~っ、と思うアローナの前で、ジンは楽しげに笑っている。