貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

 アローナは盗賊の(かしら)に懇願する。

「あ、あの~、もう一度、売るのなら、あの娼館にしてください」

 エメリアたちのいる娼館なら、なんとかなると思ったのだ。

 だが、

「同じ奴を二度も持ってけるか。
 お前が言うように、売っておいては逃げ出させて、また商品にしてるのかと疑われる。

 海の向こうの、別の娼館に連れていく」
と無情にも頭は言い放った。

 ええーっ?
というアローナを小脇に抱え、男たちは街を出て砂漠をひた走る。

 そこからあっという間に海に出て、船で渡っていたが、嵐に巻き込まれ、船は人気(ひとけ)のない何処かの島にたどり着いてしまった。

「ちょ、ちょっと自分を見つめ直したいって呟いただけなのに……」

 何故、こんなことに……、と思うアローナの横で、頭は、

「くそっ。
 おかしな娘を拾ったせいで、こんなことにっ」
と悔しがる。

「こんな娘を乗せていたから、海の神の怒りに触れたに違いないっ」

 いやいやいやっ。
 あなた方が勝手に連れ去ったんですよね~っ!?
と思うアローナの横で、頭が言う。

「ともかく、船を作り直すか、助けを呼ぼう」

「助けを呼ぶって、どうやってですか」

「伝書インコを呼ぶ」

「……伝書インコ?
 何処に?」
とアローナは周囲を見回したが、インコはいない。

 そういえば、伝書インコで呼ぶ、じゃなくて、伝書インコを呼ぶとか言ったな、この人。

 伝書鳩とかって帰巣本能を利用して、伝書させるんじゃないのか。

 向こうからはやって来ないと思うんだが。

 今、此処にいない奴をどうやって呼ぶんだ。

 鷹みたいに笛吹いて呼ぶのだろうか……と思いながら、アローナは陸地の見えない海を眺めていたが、

「いや、奴は呼べば、必ず来る!」
と頭は主張する。

「溺愛してるんで……」
と近くにいた子分のひとりがボソリと教えてくれた。

 頭は枯れ枝のような長い杖を取り出してきた。

 海に向かって頭がその杖を振ると、ヒュンヒュンと不思議な音がする。

 ほほう、これでインコが……と思ったが、来ない。

 アローナが(かしら)を見上げると、頭は焦ったように言ってきた。
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