貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~



「あっ、ジン様っ?」

 広間に新たな料理を取りに行ったアローナは、そこにジンも居るのに気がついた。

 さっきから、二人とも各部屋を往復していたのだが、ちょうどすれ違い、出会えていなかったのだ。

 というか、恐らく、エメリアが長く働かせるために、上手い具合に二人を出会わせなかったのだろう。

 ジンは顔を隠すため、仮面舞踏会でつけるような面をつけていたが、アローナにはすぐわかった。

 ……もしや、これは愛だろうか、とアローナは思う。

 そのとき、ジンも思っていた。

 アローナは顔を隠すようにベールをつけているが、俺には一発でアローナだとわかってしまった。

 もしや、これは愛だろうか、と。

 だが、一緒に働かされている兵士たちが聞いていたら、

「いやいや」
と手を振っていたことだろう。

「その扮装、ほとんど顔、見えてますから、王よ」

 そう言って。

 二人が出会ってしまったので、エメリアは舌打ちしていた。

「アローナ、迎えに来たぞ、帰ろう。
 城から逃げ出すなどと、俺になんの不満があったのだ」
とジンが言ってくる。

「いえ、ジン様に不満があったわけではないのです。
 私が王妃としてやっていけるか、不安になっただけで――」

 アハト様がいろいろ言うから、という言葉をアローナは呑み込んだ。

 アハトが叱られては申し訳ないな、と思ったからだ。

「そのようなことは心配せずともよい。
 お前が側に居てくれるだけで、俺はなんだか……

 し、幸せなのだ。

 心がほっこりするというか。
 かつてない穏やかな気持ちになれるのだ」
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