貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
アローナとジンは夜の灯りの灯る城下の街を歩いていた。
屋台がたくさん出ているので覗いてみようと、人目につかない場所で馬車を降りたのだ。
ベールと仮面で変装したまま、ふたりは小銭を握り、石畳の道にずらりと並んでいる屋台を見て歩く。
「あの丸焼きの肉、美味しそうですね~」
焼かれて、どんどんどん、と並べられたり吊るされたりしている鶏を見て、アローナは笑った。
先程の娼館の丸焼きみたいにハーブや野菜で美しく飾られていたりはしないが、ワイルドで無造作に置かれている感じがまた美味しそうだ。
野性味溢れる味がしそうだな、とアローナは丸焼きに近寄ってみた。
ハーブの匂いなどはせず、ただ、塩っ、胡椒っ、肉汁っ、という単純だが、食欲をそそる匂いがしている。
丸焼きを眺めているアローナの後ろからジンが言ってきた。
「……買ってやりたいところだが、お腹を壊してもまずいしな。
似たものを城で作らせよう」
屋台の衛生状態に不安を覚えているのだろう。
確かに、みんな少々、中が生っぽくても平気で食べてそうな雰囲気だ。
胃腸が鍛えられているのだろう。
でも、私も島で、その辺のもの食べても大丈夫だったんですけどね、とアローナは思っていたが。
逃げ出して迷惑をかけたばかりなので、忠告に逆らってお腹を壊しても悪いかと思い、此処はおとなしく、
「はい」
と言うことにした。