貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

 アリアナは昔、砂漠の向こうの緑の国の後宮にいたそうだ。

「国の決まり事とは言え、愛した男が次々名家の娘を(めと)るのに耐えられなくてね。

 後宮には次々若く美しい娘がやってくる。

 むずかしいことさね。
 たったひとりの愛した男に、永遠に愛され続けることは。

 ……娼館の経営より、よっぽどね」

 ふうー、とアリアナは手入れのいいキセルから煙を吐き出した。

「アリアナ様……」

 アリアナはキセルでジンを差して言う。

「男なんて最初は誰でも、一生お前だけだとか、うっとりするようなことを語るもんさ。
 だが、三年も経たないうちに、今度は違う娘にそう語るのさ。

 特に、王様って人種はね」

「わ、私は違う。
 私は……」
と言おうとしたジンの言葉を遮るように、アリアナは言った。

「よく考えな、アローナ。
 あんたに任せたいのは経営だ。

 あんたが娼婦になる必要はない。

 あんたほどの才があれば、此処を娼館以上のなにかにできるかもしれない」

 娼館以上のなにかってなんだ……と全員が固まる。

 盗賊たちを飼い慣らし、各国に張り巡らされた情報網や販売網を作って、なにかをしでかしそうだ、とジンたちは怯えた。

「……なんかすごい蒸留酒とか交易品とか扱って、桁違いの金銭を要求してきたら、アリアナ様より怖いですな」
と何故かアハトも怯える。

「アローナを娼館にとられてなるものか。
 アローナはメディフィスの王妃にこそ、相応しいっ」
と宣言するジンを見ながら、フェルナンが、

「……いや、相応(ふさわ)しいかどうかは知りませんけどね。
 っていうか、愛情がどうのより、アローナ様の勤め先のスカウト合戦みたいになっちゃってるんですけど、いいんですかね」
と呟いていた。

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