貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
 フェルナンは、どうせなにもしゃべれないのだからと行ってしまったようだが。

 気になるな。
 一体、誰がフェルナンを脅しているのだろう?

 忠実なる王の部下が板挟みになって苦しんでいるのなら、どうにかしてあげたいのだが。

 なんだかんだで、フェルナンもワイン持ってきてくれたしな。

 そう思ったとき、
「ほら」
とジンが召使いが持ってきてくれたワインをアローナに差し出した。

「ついでやろう」
と言って、また寝台にアローナを座らせる。

 サイドテーブルを見たジンは、
「もう一本増えてるじゃないか。
 誰に持ってこさせたんだ」
と言いながらも、美しいカッティングが施された瑠璃色のグラスに注いでくれた。

 仕方ないので、ちょっぴり口をつける。

「……美味いか?」
と訊いてくるジンの瞳はちょっとやさしそうに見えた。

 ……うん。

 アローナ姫として此処に迎えられたのでは、見られなかっただろう、この人の素の顔が見られるのはいいかもな。

 などと、うっかり思ってしまう。
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