貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
「近くで見ても美しいではないか。

 たまに、お前たちが選ぶ衣装が素晴らしすぎて、それに惑わされているだけのときもあるが。

 こうして、間近でじっくり見ても、愛らしい美しい瞳をしているな」

 ……此処の女主人たちが気づいているのかどうかかわからないが。

 此処の言葉、書くことはまだあまりできないが。

 話したり、聞き取ったりすることは、そこそこできるのだ。

「よし、この娘で。
 幾らだ?」
とローブの男が言った瞬間、奥の扉が開いて、漆黒の飾り気のないドレスを着た小柄な老婆が現れた。

「この娘を連れて帰ったあとで、また馬車を此処に寄越しな。
 (きん)で満杯にしてね」

 この老婆がこの娼館の女主人だ。

 とは言っても、此処にさらわれてきたとき、値踏みされたくらいの関係でしかないので、どんな人なのか、よくわからないが。

「いいだろう」
とローブの男は言った。

 あーあ。
 買われてしまったようだ、とアローナは落胆する。

 まあ、どのみち、父親より年上の男に嫁がされるところだったから。
 どっちでも同じかなー、と思わないでもなかったが。

 なかったが……。

 でも、この状況、よくはないな、と思っている間に、外に止まっていた馬車へと急かされる。
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