35cmの音
2月の寒い雪の降る夜だった。

路上に座り込む俺の耳に
遠くから、とても小さな音が聞こえた

雑音に紛れ込む弱々しい音
あてもなく彷徨うような音

それはどこか俺の“音”と似ていた。

「ねぇ、」

誰の耳にも届かない俺の声に
その自信のない足音が止まった。

「....私、ですか...?」

同い年か年下くらいの真面目で大人しそうな子

「うん」

顔を覗き込んで少し考え込む

「えーっと、誰、ですか?」

眼鏡をクイッと上げながら
目を細め俺をじっと見つめていた。
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