あの日の恋は、なかったことにして
プロローグ
「あそこに戻るの、やめたほうがいいと思うよ」

 メイクを直したあと、カフェバーの最奥で騒いでいる友達のところへ戻ろうとしていた私を、突然誰かが呼び止めた。

 振り向いた先には、チェック柄のシャツの胸元がある。
 視線を上にずらして声の主を確かめると、キレイな顔立ちの男が微笑みながら立っていた。

 ふわふわした茶色の髪。
 ちょっと垂れた黒目がちな瞳。
 すらりとした鼻梁。
 細身のジーンズから伸びた長い脚。

 学生みたいな見た目だけれど、夜の10時に飲み屋のビルにいるんだから、一応は成人なのだろう。
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