あの日の恋は、なかったことにして
「部屋も狭いんだよね〜」

 地元は土地だけは有り余っていて、どこもかしこも豪邸ばかりだった。
 部屋もひとり一部屋どころか、車もひとり一台所有していた。
(これは、電車やバスなんかの交通手段がないので、生活するうえで必要不可欠だったからだけど)

 ところが東京で借りている部屋は、6畳1Kということになっているけど、絶対にそれよりも狭いと思う。
 キッチンは最低限の調理器具しか置けないし、コンロもギリギリ二口。
 洗濯機なんか置く場所がないから、仕方なく近くのコインランドリーまで行っている。
(いちど下着を盗まれたことがあったので、下着とか細かいのは部屋の洗面台で洗っているけど)

 で、これがいちばんの問題なんだけど、窓を開けるとすぐお向かいさんなのだ。
 隣のマンションまで、手を伸ばせば握手ができちゃうんじゃないかというくらい近い。
 ただでさえ日当たりが悪くて滅入るのに、向かいの部屋の住人がやばそうなオッサンだったので、最近はカーテンを開けるのさえ怖い。

 だから、あんまり部屋にひとりでいたくない。
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