あの日の恋は、なかったことにして
「すずちゃんの服、一応はブランドなんだけど、全部ネットフリマで買っているみたいよ。このあいだ着ていた服、気になって検索したら、その服を買ったユーザー名が『RIN』でね、購入履歴を見たら、すずちゃんが今まで着ていた服とピッタリ同じだったの!」
「うわ、引く」
「でしょ〜?」

 本人がいない場所で、そんな話をすんなよ。
 そっちの方が引くわ。

 ていうか、玲奈ちゃん、猪狩くんのこと狙ってんの?

 確かに、私は社内の男友達として猪狩くんを彼女に紹介した。
 仲良くなるのは勝手だけど、裏で結託して人の株を落としてんじゃないよ。

 猪狩くんも猪狩くんで、「ほかにも何か、おもしろい話ないの?」と彼女に続きを促している。
 玲奈ちゃんは「あ!」と思い出したように、胸元でパチンと手のひらを合わせた。

「このあいだ、すずちゃんを誘って医者の友達と食事に行ったんだけど、そのうちのひとりがすずちゃんをとっても気に入ってね。彼、私にもしつこく言い寄ってきていて困ってたんだけど、ターゲットが移ってホッとしちゃった。すずちゃんの方もまんざらじゃなさそうだったし。あ、でもね、パパ活もしているみたいよ? このあいだ、中年のおじさんと銀座で腕を組んで歩いていたの、友達が見たって言ってた」
「なんか、執念を感じる」
「だよね。がっついているよね」
「いや、あんたがさ」
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