あの日の恋は、なかったことにして
 猪狩くんは、きれいな顔を意地悪く歪ませた。

「あんた、友達の株を下げれば自分の株が上がるとでも思ってんの? ネットのアカウントまでチェックしての粗探し、マジですげーわ」
「はあ!?」
「すずちゃんは大事な友達なんだよね。だから、あんたみたいな人とは縁を切れって遠慮なく言えるわ。サンキュー」

 玲奈ちゃんの顔は、みるみる羞恥と怒りで真っ赤になっていった。

「あんたみたいな貧乏運転手、あざといビッチとお似合いだわ!」
「どうもねー」


 私は、なんだか涙が出そうになっていた。

 ひとりで東京に出てきて、信頼できるのは父親だけだと思っていた。
 だけど、私のことを「大事な友達」って言ってくれる人がいた。

「猪狩くん……」

 猪狩くんが、私にとって特別な存在になる予感がしていた。
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