あの日の恋は、なかったことにして
 大きな窓から外を眺めていると、飛行機が赤い光を点滅させながら、夜空を上へ上へと上っていくのが見えた。

「あの飛行機はどこへ行くんだろう?」
「さあ? 夜に離陸するってことは、遠い国なんじゃないかな」
「いいな。私もいろんな国を旅したい」


 バスローブ姿の猪狩くんが、私を後ろから抱きしめる。
 濡れた髪の匂いがして、なんだかドキドキした。

「緊張してる?」
「ちょっとだけ」
「うそ。震えてるじゃん」

 そのまま背後からこめかみにキスをされた。

 これから始まる長い夜のことを思うと、なんだか気が遠くなってくる。
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