あの日の恋は、なかったことにして
 見た目に似合わず筋肉質な腕で、猪狩くんは私の体を抱き上げた。
 そのままダイブするようにベッドの上で、ふたり一緒に重なる。

「なんで下着つけたままなんだよ」

 バスローブの紐をほどき、私の肌をあらわにさせたあと、猪狩くんはクスッと笑った。

 シャワーを浴びたあと、どうしたらいいかわからなくて、とりあえず下着をつけてからバスローブを着たのだけれど、どうやら不自然だったようだ。

「脱がせる楽しみがあって、いいかと思って」
「そうだね。こういうの、新鮮」

 もう一度キスをしたあと、猪狩くんは首筋に唇を伝わせて、私のブラの肩紐を咥えた。
 邪魔な紐をどかせたあと、鎖骨を美味しそうに舐める。

「くすぐったいよ」
「じゃ、こんなのは?」
「痛っ」

 肩に噛みつかれ、顔を逸らして逃げようとしたけれど、猪狩くんが私の頬に手を添えて前を向かせた。

「ごめん。優しくする」

 今度は、とっても優しいキス。
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