あの日の恋は、なかったことにして
「俺です。現場をキャッチしました。やっぱり人事戦略部のK田です。証拠も押さえたんで、あとはお願いしますね」

 私を呼び止めた男は、誰かに電話をしたあと、にっこり笑って言った。

「これからおもしろいことになるけど、面倒だから逃げたほうがいいよ」
「え、でも……」
「いいから、いいから」

 友達だと思っていた人は、ぜんぜん友達なんかじゃなかった。
 この人の言うように面倒なことになっても、私には関係ない。

「ありがと。えっと、あなたの名前は?」
「イカリ。君は?」
「すず」
「OK、すず。UNIX自体はいい会社だから。受かるといいね」
「え、なんで私がそこで就活してるって知ってるの?」
「ひみつ!」

 もしかして、探偵さんとか?
 今回の件、誰かに報告してたみたいだし。

 変な人。
 でも、笑顔が素敵なこの人に、なんだかまた会える予感がしていた。
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