あの日の恋は、なかったことにして
【4】幸福は、誰かの不幸の上に成り立っている。
「私ね、二番目に好きな人と結婚しようと思ってるの」
「二番目? 一番じゃなくて?」
「うん。一番好きな人には、多分想いが強くなりすぎちゃうから。二番目に大好きな人と、穏やかに結婚生活を送るんだ」
「ふうん」
猪狩くんは、私の頭を左の肩に乗せ、くるくると髪の毛をいじっている。
「このあいだ、猪狩くん、私に『パパ活』してるのって聞いたでしょ?」
「あのときはごめん。酷かったよな」
「ううん、いいの。でね、そのとき一緒にいた人、私の本当の父親」
「お父さんとデートだったんだ」
「そう」