あの日の恋は、なかったことにして
 猪狩くんは、くしゃっと顔を崩して笑った。

「すずがあんまり可愛すぎて、もう一回したくなってきた」
「え!? もう無理! 疲れたよ〜」
「今日はもうひとつ、知らない世界の扉を開いたしね」
「もう!」

 ふざけて拳で叩こうとしたら、その手首を猪狩くんに掴まれた。
 ベッドに押し付けられ、唇を触れ合わせる。

 とろけるようなキスを繰り返したあと、猪狩くんは名残惜しそうに言った。

「今日はもう寝よっか」
「うん。また明日」

 他人と肌をくっつけて眠るのははじめてで、ドキドキした。

 でも、猪狩くんの体温が気持ちよくて、初体験の疲れも相まって、私はすぐに眠りに落ちていった。
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