あの日の恋は、なかったことにして
猪狩くんが、最奥にある重厚なドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
猪狩くんはドアを開けたあと、私に中へ入るよう促した。
窓の前にある大きなデスクに、まるでどこかの国の大統領みたいに桐生社長が座っている。
姿を直接見たのは入社式のとき以来だが、30代前半のCEOは、本当に若い。
「猪狩は下がっていいよ。島本さんは、こちらへ」
「はい」
応接ソファに腰かけると、社長が直々に急須でお茶を淹れてくれた。
場にそぐわない光景で、一瞬気がひるむ。
「島本|清香(さやか)さんの娘さんだってね。桐生宗一郎の息子の、薫です。はじめまして、かな」
ああ、この人は、全部知っているんだな、と思った。
私の父は彼の父親と同一人物で、母の清香はその愛人だということ。
だから私とこの人は、半分血がつながっているということ。
「どうぞ」
「失礼します」
猪狩くんはドアを開けたあと、私に中へ入るよう促した。
窓の前にある大きなデスクに、まるでどこかの国の大統領みたいに桐生社長が座っている。
姿を直接見たのは入社式のとき以来だが、30代前半のCEOは、本当に若い。
「猪狩は下がっていいよ。島本さんは、こちらへ」
「はい」
応接ソファに腰かけると、社長が直々に急須でお茶を淹れてくれた。
場にそぐわない光景で、一瞬気がひるむ。
「島本|清香(さやか)さんの娘さんだってね。桐生宗一郎の息子の、薫です。はじめまして、かな」
ああ、この人は、全部知っているんだな、と思った。
私の父は彼の父親と同一人物で、母の清香はその愛人だということ。
だから私とこの人は、半分血がつながっているということ。