あの日の恋は、なかったことにして
「俺が社長に、すずと父親のことを言った。でも、他意はないんだ。まさか、すずのお父さんが、桐生社長の父親と同じだったなんて……」
「もういいって言ったでしょ」
私は、ポケットから一万円札を2枚取り出した。そして、それを無理やり彼のスーツのポケットにねじ込んだ。
あの日猪狩くんが置いていったお金を、返そうと思って持ってきていたのだ。
「そんなに私、お金目当てに見えた? 体を売ってまで、ブランド服が着たい女だと思った?」
「違う。これは、帰りの交通費で……」
「これが交通費って、あんたバカ? タクシーでもこんなにかからないよ」
思い描いていた東京でのOL生活と、なにもかもが違いすぎて、ほんとうに笑える。
他人を信じちゃいけないって、あれほど気を付けていたのに、やさしい笑顔にうっかり気を許してしまった。
だから今回のことは、自分への戒めだ。
「もういいって言ったでしょ」
私は、ポケットから一万円札を2枚取り出した。そして、それを無理やり彼のスーツのポケットにねじ込んだ。
あの日猪狩くんが置いていったお金を、返そうと思って持ってきていたのだ。
「そんなに私、お金目当てに見えた? 体を売ってまで、ブランド服が着たい女だと思った?」
「違う。これは、帰りの交通費で……」
「これが交通費って、あんたバカ? タクシーでもこんなにかからないよ」
思い描いていた東京でのOL生活と、なにもかもが違いすぎて、ほんとうに笑える。
他人を信じちゃいけないって、あれほど気を付けていたのに、やさしい笑顔にうっかり気を許してしまった。
だから今回のことは、自分への戒めだ。