あの日の恋は、なかったことにして
 急転直下の出来事が起きたのは、その1週間後のこと。
 山形の母が、東京に来ることになったのだ。


 自分の存在が、父親の家族にばれてしまった。そのせいで母親にも迷惑がかかるかもしれないと、電話で正直に話した。

 すると母は、こう言った。

「いい機会だから、腹をくくって本妻と対決するわ」
「ええ!? なに言ってんの!?」
「だって、うちの娘が悪者にされたままなんて嫌じゃない。ちゃんと真面目に大学通って、就職活動だってがんばったのに」
「でも、お父さんの口添えもあったみたいよ?」
「それくらいのコネ、使わなくてどうすんの。分かってて採用したなら、あっちが悪いんじゃない」
「いや、そうかもしれないけど……」

 うちの母は、こうと決めたら行動が早い。

「すず、あの人と連絡取ってるんでしょ? いつでもいいから来週中に時間とれって言っといて。奥さんと薫くんも一緒に食事でもしましょーって」
「ええー!? さすがに忙しいでしょ! っていうか、来るわけないでしょ!」
「言ってみなきゃわからないじゃない~」


 母がこう言って譲らないので、仕方なく父に相談した。
 すると、絶対に無理だと思っていたのに、週末の昼間の時間を私と母のために空けてくれたのだ。

 本妻である奥様と、息子の桐生社長も一緒に。
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