あの日の恋は、なかったことにして
【6】重たい話は、ネコに聞かせるのが最善である。
ホテルのロビーで少し待っていると、スーツを着た父と、和服姿の奥様、それと桐生社長がやってきた。
父の正妻である加奈子さんは、社長夫人らしい気品と貫禄がある。
一方、幾何学模様の派手なカットソーに黒のワイドパンツを着た母は、媚びない自由さがあり、いかにも愛人といった風情だ。
私は、ふんわりしたシルエットの清楚系ワンピース。
とっておきの勝負服だ。