あの日の恋は、なかったことにして
「最初は、総務課の島本という社員が、男性からお金をもらって……その、援助交際のようなものをしている、という密告があったんだ」
受付嬢の玲奈ちゃんかな?
まあ、どうでもいいけど。
私はいま、猫じゃらしを振るのに忙しいのだ。
「それで猪狩に調べさせた。君の素性は知っていたが、真面目に仕事に取り組んでいるようだったのでそのままにしておいた。だが、法に触れるようなことをされては困ると思って、念のためにね」
「私のこと、知ってたんですか」
「桐生家の中では、公然の秘密のようなものだから」
「そっか……」
じゃあ、私の存在を知ってショック、というわけでもなかったんだな。
「猪狩は、『あれは彼女の本当のお父さんとのデートだったみたいですよ』と喜んで報告してきたよ。もちろん、猪狩は僕と君との関係を知らなかったからね。ただ、お金を受け取っていたというのが気になっていた。もしかして、金銭的な苦労をしていたのかと思って」
「いや、あれは……」
「ああ、それも誤解だとわかった。父から直接聞いたんだ。久しぶりに叱られたよ、噂話を鵜呑みにするなとね」
「にゃーん」
「ごめんね、いま撫でますよ〜」
猫にデレデレになっている若い男が、今をときめく外資系コンサルのCEOだと誰が思うだろう。
うん、この人は誠実な人だ。
年寄りと動物に優しい人は、十分信用に値する。
受付嬢の玲奈ちゃんかな?
まあ、どうでもいいけど。
私はいま、猫じゃらしを振るのに忙しいのだ。
「それで猪狩に調べさせた。君の素性は知っていたが、真面目に仕事に取り組んでいるようだったのでそのままにしておいた。だが、法に触れるようなことをされては困ると思って、念のためにね」
「私のこと、知ってたんですか」
「桐生家の中では、公然の秘密のようなものだから」
「そっか……」
じゃあ、私の存在を知ってショック、というわけでもなかったんだな。
「猪狩は、『あれは彼女の本当のお父さんとのデートだったみたいですよ』と喜んで報告してきたよ。もちろん、猪狩は僕と君との関係を知らなかったからね。ただ、お金を受け取っていたというのが気になっていた。もしかして、金銭的な苦労をしていたのかと思って」
「いや、あれは……」
「ああ、それも誤解だとわかった。父から直接聞いたんだ。久しぶりに叱られたよ、噂話を鵜呑みにするなとね」
「にゃーん」
「ごめんね、いま撫でますよ〜」
猫にデレデレになっている若い男が、今をときめく外資系コンサルのCEOだと誰が思うだろう。
うん、この人は誠実な人だ。
年寄りと動物に優しい人は、十分信用に値する。