あの日の恋は、なかったことにして
【7】プロポーズは、勢いが大切である。
「君たち親子は、僕らを恨んでいたんじゃないかな」

 何かを言いかけては止めていた桐生社長が、意を決したように言った。

 私たち親子を責めているのか。
 日陰の身で、つらい思いをしてきたゆえに、本妻とその子供を恨んでいたのではないか、と。

 でも、桐生社長はなんだかとても悲しい顔をしていた。
 私たちのことを見下したり哀れんだりしているような表情とも、違って見えた。

「恨んだことはないですよ。父と一緒にいられて、羨ましいとは思ってましたけど。私、重度のファザコンなんです」
「そうなの?」
「だってお父さん、かわいいじゃないですか」
「かわいい……」

 桐生社長はあっけにとられたような顔をして、それからくすりと笑った。

「僕にとって父は、偉大で、尊敬の対象だった。だから正直、父に別の家族がいることを知ってショックだった。でも次第に、申し訳なさでいっぱいになった」
「申し訳ないなんて、逆でしょ? そっちが被害者なのに」
「いや、本来なら今の僕の立場にいるのは君だったかもしれないんだ。僕は……父の本当の子じゃないから」

 本当の子じゃない?
 養子ってことだろうか。
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