あの日の恋は、なかったことにして
【エピローグ】
「ねぇすず、このダンボールは寝室に運べばいいの?」
「うん。クローゼットの中に入れておいて」
「りょーかいっ!」

 3日前まで雨が降っていて天気が心配だったけれど、新居への引っ越しの今日は、みごとに晴天。


 窓を開けると、心地よい風が部屋に入ってくる。
 今までみたいに隣の人から覗かれる心配がない、敷地の広い一軒家。

 緑もある住宅街だけれど、吉祥寺駅まで徒歩10分という好立地で、これこそ夢見ていた東京ライフだ。


「これからふたりの生活が始まるね」

 キッチンの片づけをしていた私に、背後から猪狩くんが抱きついてきた。

 私服になると、とたんに学生みたいに幼くなる。
 甘えたがりだし、これで私よりも4つも年上だなんて信じられない。

「べつに、一緒に暮らすわけじゃないでしょ」
「えー、俺、ここに住み込むつもりだけど」
「猪狩くんのスペースは1階。2階は私が賃貸契約したんだからね」
「しょぼーん」

< 73 / 78 >

この作品をシェア

pagetop