あの日の恋は、なかったことにして
「はい、例のやつ」
「サンキューーーー!」

 私は持っていた紙袋を渡す。
 中には、おにぎりとかサンドイッチとか、タッパーに入ったおかずなんかが入っている。

「見た目に似合わず、料理上手だよな、すずちゃん」
「だって、東京で外食生活してたら、あっという間にお金がなくなっちゃう! 物価高すぎだよ、もう」
「ひとりぶんの食事を作るより、コンビニ弁当買った方が楽だし安上がりじゃね?」
「だから、こうして猪狩くんの分の弁当まで作れば、めっちゃ節約できるってわけ」

 紙袋の中身を確認した猪狩くんは、財布から1万円札を出して私に手渡した。
 これから1週間、朝と昼の分の弁当を作ることになっている。
 しめて1万円なり。

「まいどー」

 これが私の、ちょっとした小遣い稼ぎ。
< 9 / 78 >

この作品をシェア

pagetop