お願い、あと少しだけ
コスモワールドの大観覧車
「やっと、着いたね。足、疲れたぁ。」

はぁっ、吐息をついて言う奈緒子。

「ヒールとかはいてこなくてよかっただろ?」

くすくす、楽しそうに笑う弘樹。

「うん。歩きやすい靴にしといて、正解!」

目の前には、大観覧車がそびえたっている。時刻は4時半過ぎ、そろそろ陽が暮れてくるころだ。

「行こっか」

弘樹がつないだ右手をぎゅっと握る。今日は土曜日、結構な人が並んでいる。時間的に日没の風景を見たい、と言う人も多いのだろう。

「ホントに、透明のほうじゃなくていいの?」

2つのゴンドラの分岐点まで来て奈緒子が弘樹に問う。

「奈緒子は?乗ってみたい?」

思わず、顔をこわばらせる奈緒子。

「だったら、いいよ。奈緒子が楽しめなきゃ、意味ない」

「ありがとう、弘樹。もう少し勇気が出たら、今度はきっと・・・」

ぷぷっ、と弘樹が笑って、

「いいよ、無理しないで。誰でも苦手なものはあるんだから」

「弘樹は、ホントに優しいね」

真っ赤になる弘樹。奈緒子の、こういうストレートな言葉に弱い。

「奈緒子の為なら、優しくなれるんだよ」

「弘樹・・・うれしい」

2人は見つめあった。

「ごほん」

係員の人が咳払いをした。

「普通のゴンドラでよろしいですね?」

「あ、はい」

気がつけば、次の順番に来ていた。

ゴンドラに乗り込み、2人で景色を見ながら、ゆったりする。

「もうすぐ頂上だね」

弘樹が言う。

「ねぇ・・・大阪って、どっちかな」

奈緒子が尋ねる。

「西だから、太陽の沈む方向?ざっくりと、だけど」

「弘樹は、あの空の向こうに、明日、新幹線で行くんだね」

「ああ」

「そういえば、引っ越しはどうなってるの?最終で行って寝る場所とか大丈夫なの?」

「先週、引っ越しは済ませたんだ。あとは、スポーツバッグひとつでOK。」

「そうなんだ。いよいよ、ってかんじだね」

奈緒子がちょっと悲しげに言った。

「まだ、今日は終わってないし、明日もあるよ。楽しくすごそ、な?」

涙目の奈緒子の頭をやさしくぽん、ぽん、とした弘樹だった。
< 18 / 53 >

この作品をシェア

pagetop