お願い、あと少しだけ
残された時間
20階のレストランに着いて、2人は席に通された。

「コースをオーダーしておいたから」

と弘樹。

「今は、奈緒子をじっと見つめていたい」

真顔で言う弘樹。奈緒子は、ちょっと照れてしまう。

「そんなに直視されると、照れるよぉ」

弘樹が奈緒子の手を取り、静かに言った。

「でもさ・・・これからしばらくは、こうやって直接会うこともできなくなるんだから、脳裏に奈緒子の映像を残しときたいんだ」

「写真、いっぱい撮ったじゃない。お互い、印刷してアルバムにしとこ!あ、手帳にも挟んどこうよね!」

「あぁ・・・でも、それとは別に、瞳を閉じるといつも奈緒子がいる、そんな感じにしたいんだ」

「・・・弘樹。私も」

料理が運ばれてくる。それらを食べながら、お互い見つめあう。

言葉はもう、あまり必要なかった。

ゆっくり、3時間くらいかけて、ディナーは終わった。

「東京駅に、行かなきゃね。新幹線、何時?」

「終電は、21時24分」

「あんまり、時間ないか」

「まだ、少し時間あるよ」

弘樹が微笑んで言う。
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