お願い、あと少しだけ
弘樹、大阪に到着。そして、勤務初日
奈緒子は、家に着いたらすぐに弘樹にLINEした。

奈緒子【今、無事家に着いたよ。弘樹はまだ、新幹線?】

弘樹【うん。新大阪着が、確か、23時45分。もう少しかかるから、先に寝てて。愛してる。おやすみ】

奈緒子【アパートに着いたら、メッセージだけちょうだい。電源落としといて、明日見るから。私も愛してる。おやすみ】

明日から、弘樹は新しい職場で、新しい仕事だ。まぁ、同じ開発部だから、基本的には仕事、変わらないんだろうけど、課長になるんだもんね。頑張って、弘樹。

そう祈りながら、ベッドに入った。弘樹の唇のぬくもりがまだ残っているような気がする。この夢のような週末が、夢で終わりませんように。2人の力で夢にしないんだ。そう思いながら、奈緒子は眠りにおちていた。

一方、弘樹は新大阪駅を降りて、上新庄にあるアパートまでタクシーで向かった。電車を使えば安いが、時間が時間なので、新しい家に行くには不安があった。話好きの運転手の相手を適当にしながら、アパートに着いた。

もう、0時を回っている。奈緒子に、アパートに着いた報告LINEを打つと、さっとシャワーを浴びて、ベッドに入った。奈緒子が今週末、大阪に来てくれる。それを楽しみに毎日がんばろう。目を閉じると、離れる寸前の奈緒子の切なげな瞳が瞼の裏に映る。大丈夫、大丈夫だ。僕たちは距離に負けたりしない。僕が、奈緒子を絶対に離さない。強い決意を胸に、眠りに落ちた弘樹だった。

翌日、弘樹は、大阪支店のビルの前にいた。ここが、これから働く場所か。なんだか感慨深かった。まず、6階の人事部へと向かった。

「あぁ、紺野くん。待っていたよ。大阪の街はどうだね?」

人事部長が朗らかに出迎える。

「まだ、あまりよく分かりません。昨日、終電で着いたばかりなので」

「そうかそうか。金曜の夜は、開発部で歓迎会をするそうだ。こちらが、開発部長の服部喜和子くんだ」

40代後半か、と思われる赤ぶちの眼鏡をかけた小綺麗な女性が紹介された。女性の上司か。やり手なんだな。

「紺野課長、開発部長の服部です。いいチームプレイが出来るよう、お互い頑張りましょう。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします、服部部長」

「開発部に案内するわ。7階なの。階段のほうが早いから、それでいいかしら」

「もちろんです」

服部部長に開発部の面々に紹介され、その日の仕事が始まった。
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