お願い、あと少しだけ
弘樹は、部下のアイディアの中から、これは!というものをいくつか見つけ、追加改善点とともに服部部長に提出した。

「あいつら、結構いいアイディア、持ってますね。僕としても勉強になります。でも、ちょっと詰めが甘いところがあったんで、僕なりに改善案を出してみました」

「ありがとう。あの、ちょっと変なことを聞くようだけど」

「えっ?」

「東京本社の岡崎奈緒子さんって、あなたの婚約者って本当?」

どうしてそれを服部部長が?

「はい、そうですけど・・・どこでそれを?」

「昨日の午後、亮吾さん…じゃなかった、東京総務の佐川部長から電話があって、二人を離れ離れにしたくないから、一番早く開きの出る部課はどこか調べてくれって・・・半日かかって、秘書課の山下さんが来月半ばに結婚退職することをつきとめたの。岡崎さん、今ごろ知らされているころよ」

「佐川部長と服部部長って・・・?」

「それは、ちょっとここでは。今日の夜、少し時間もらえる?」

一体2人はどんな関係なのだろう。2人とも既婚者のはずだ。気になる。

明らかにいつもとは違う様子だ。

「はい、わかりました。一緒においしいものでも食べましょう…って、僕、店全然知らないんですけど」

服部部長は、くすっと笑って。

「お好み焼きでいい?おいしいお店があるの」

と提案した。

「お好み焼き、大阪って感じですね。よろしくおねがいします」

「じゃ、その時に。仕事に戻りましょ」

そのときはもう、すっかりデキる女モードに戻っていた。

昼休み。奈緒子は即弘樹に電話していた。

「あのね」

「うちの秘書課に来るんだろ?」

「どうしてそれを・・・まだ決まったわけじゃないけど」

「そのことで・・・今夜はちょっと電話遅くなるかも。でも、必ずするから」

奈緒子は、少し不安になる。

「私、信じてていいのよね?」

「もちろん。それって、きっと奈緒子も興味持つと思う」

「えっ?」

「僕も今はよく分かんないんだけど。とりあえず夜」

「??ん。分かった。じゃあね」

「愛してる」

「私も愛してる」

電話を切って、奈緒子は思った。きっと、何かがあるんだわ。でも、何が・・・?
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