お願い、あと少しだけ
家に帰ると、もう少しで8時のところだった。奈緒子は夕食食べ終わっただろうか。この話を奈緒子が聞いたらどう思うだろう。

そんなことを思いながら、弘樹はテレビ電話でコールする。2コールで奈緒子が出た。

「弘樹、今日は遅くなるんじゃなかったの?まだ、8時よ」

「夕食食べてた相手が、急いでてね。上司と・・・服部喜和子部長とお好み焼き食べてたんだけど、家族が待ってるからって早々に帰っちゃってね。でも・・・」

「でも?」

奈緒子が不思議そうに小首をかしげる。

「服部部長、昔、遠距離恋愛してたんだって。奈緒子の上司の、佐川亮吾部長と」

「・・・」

奈緒子が「あ」の口のまま、止まっていた。そんな過去があったとは、驚きなのだろう。弘樹だって驚いた。奈緒子が言った。

「2人とも、もう、家庭を持っているよね」

奈緒子が言った。

別離(わか)れてから、きっと会ってないよね」

「・・・まぁ、そうだろな。服部部長のほうから離れて行ったらしいから」

奈緒子が考え込む。私たちに、何かできないだろうか、2人のために。きっと、一生懸命奈緒子の転属先を探してくれたであろう、2人のために。

「2人・・・もう会いたくないかな?」

「ん~、どうだろう?もう、かなり前の話らしいから」

奈緒子が、少し涙を浮かべて言う。

「私だったら、会いたい。大好きだった人、大好きだったけど、結ばれなかった人。今が幸せだからこそ、大切だった人に幸せだよ、私、って伝えたい」
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