お願い、あと少しだけ
弘樹とは、新幹線中央口で待ち合わせした。ちょっと早く着きすぎちゃったな、と思いながら、あたりを見回す。

気のせいか、東京よりせかせかした人の流れ。めまいを起こしそうになる。しばらくすると、愛しい人の声が聞こえた。

「奈緒子!お待たせ。タイカレーが食べられる店があるみたいなんだけど、そこでいい?」

「うん。タイカレーって、ココナッツの味がするよね」

「あぁ。生春巻きとかも置いてるみたいだから、食べようか。歩いてすぐだから、行こう」

自然に、手をつないで歩く。久々に感じる弘樹のぬくもり。スマホでは、決して感じられないぬくもり。

「ん?どした?」

黙り込んでいた奈緒子に弘樹が心配げに言う。

「ううん・・・会えたんだなぁ、って実感してるの」

弘樹は、ギュッと奈緒子を抱きしめた。

「そうだな。こんなこともずっと、できなかったもんな」

「うん」

往来の中で恥ずかし気もなくこんなことをしてしまう弘樹がたまらなく好きだ、と思う奈緒子なのだった。

しばらく抱き合ったあと、また手をつないで歩きだした。

「ここだよ、入ろうか」

タイの国旗が掲げられた、こじんまりとしたお店。なんか、イイ感じだ。

席に案内されて、ランチメニューを見る。

グリーンカレー、レッドカレー、イエローカレーと生春巻きと飲み物のセットだ。

「私は・・・グリーンカレーのセットにしようかな。飲み物は、タイ風アイスミルクティーで」

「僕も、グリーンカレーセットにしようかな。飲み物は、ミルクたっぷりアイスコーヒーで」

ウェイターを呼んで注文する。

「奈緒子、緊張してる?」

「そりゃあ、ね。弘樹と同じ職場で働けるかどうか、テストされるんだもん」

「奈緒子なら、大丈夫」

「何を根拠に?」

思わず、吹き出してしまった奈緒子だった。でも、なんだか弘樹がそう言ってくれると安心する。

おいしい食事を堪能したあと、いよいよ2人はオフィスに向かった。
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