お願い、あと少しだけ
終業の5時になり、奈緒子は田中部長に挨拶をして、高垣部長を訪ねた。

「どう?やっていけそう?」

「はい・・・田中部長、とってもお優しい方で。周りの方々もすごく親切で、助かりました」

「よかった。じゃあ、再来週から、来てもらえるかしら。2週間は、木村さんと2人体制になるけど、それからは独立よ」

「わかりました」

奈緒子がちらちらと時計を見ているのに気づいた高垣部長は微笑んで。

「紺野さんと夕食するのね。じゃ、再来週から、期待してるわ」

「あ、ありがとうございます。急かしちゃったようですみません」

「いいのよ、いいのよ。新幹線、遅くなると大変だから、早めのディナーにしなくちゃね」

高垣部長がウィンクして言った。

奈緒子が一階ホールに行くと、すでに弘樹が待っていた。

「奈緒子、どうだった?」

「おそくなってごめん!」

2人同時に言ってしまい、吹いた。

「あのね、正式採用、されたのよ。再来週から、って。今週末は私が大阪に、来週末は弘樹が東京に、そしたら・・・」

「うちに住む?1LDKだけど、LDKがわりと広いんだ。ベッドも、ダブル入れてるし・・・いいよな?」

嬉しい。2人で住める。

「出来るだけ、荷物減らして引っ越すね。・・・楽しみ」

「だな・・・あ、調べたんだけど、18時57分のに乗れば、21時24分くらいに東京に着けるみたいだ。そのくらいだったら、大丈夫だよな、ひとりでも?」

「うん」

「夕食は、ファミレスにしよっか」

時間を考えると・・・。

「それが安全かもね」

もうすぐ5時半だ。

近くのファミレスに入ると、比較的すいていてホッとした。チーズハンバーグ定食と照り焼きハンバーグ定食を頼んで、シェアして食べた。いつからだったっけ、2人でシェアするのが当たり前になったのは。

あっという間に、18時40分。新幹線の乗り場に急いだ。

あぁ、また、この瞬間がやってきたんだ。

すぐ会える、って分かっているけどやっぱり切ない。

神様、お願い、あと少しだけ、弘樹との時間をそのままにしておいてください。

そう思っていても、無情にも時間は過ぎ・・・抱きあっていた弘樹が熱いキスをくれて・・・発車のベルが鳴る。

あと2週間、あと2週間だ。大丈夫。

離れ離れは、あとほんの少しよ・・・。




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