ちよ先輩のてのひらの上。


……もう……。また、イジワルだ……。

前に、私が先輩にされて嫌なことなんてないって言ったから。

ちよ先輩はわかってて、こうして聞いてきてるんだ。


「……嫌じゃ、ないです……」


安川先輩の目の前だということに緊張しながらも、なんとか絞り出す。

私の返事を聞いたちよ先輩は、満足げに顔を上げた。


「ほらね?……聞いたでしょ、安川。俺はそらとは違うから」

「……そう……みたいっすね」


小さく呟くような返事が返ってくる。


なんて答えるのが正解なのかわからず、本当のことを言ってしまったけれど……。

よく考えたら、すごく恥ずかしいかもしれない。


私は、おずおずと安川先輩を伺った。

……なぜだか、安川先輩は顔を赤くしていた。

私と目が合うと、うろたえるように目を泳がせて、


「……あっ、俺、もう帰りますね。横田には、ちゃんと断っておくんで!」

「……うん。そうしてもらえると助かるよ」

「それじゃあ、すんません。鍵、よろしくお願いします」

「ん。お疲れ」


慌ただしく荷物をまとめた安川先輩は、「お疲れ様でーす!」とやけに明るい声を残し、足早に去って行った。

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