ちよ先輩のてのひらの上。
「あ……」
綺麗な黒髪のポニーテールを微かに揺らし、莉子と呼ばれていた彼女は驚いたように目を丸くした。
前に、体育館の傍で、ちよ先輩と一緒にいた人だった。
その隣にいた女子生徒も、私に気がつくと、やばい、という顔をして唇を結んだ。
私たちの間になんとも言えない空気が流れ、気まずさから、足元へと視線を落とす。
「……先、教室行ってて」
そう言った莉子先輩の小さな声が聞こえた。
続いて、パタパタと逃げるように離れて行く上履きが、視界を横切っていく。
「あの……聞こえてた、よね」
その場に残った莉子先輩に、私は小さく頷いた。
「ごめんね。あの子も、悪気があったわけじゃなくて、……私を励まそうとしてくれただけっていうか……」
「……大丈夫、です……」
私は、なんとか笑顔を浮かべた。
「本当の、ことなので……」
「……そっか」
莉子先輩は困ったようにそう呟くと、
「……それなら、よかった」
そう残して、教室へと戻って行った。
私は最後まで、視線を上げることができなかった。