ちよ先輩のてのひらの上。
先輩は、バツが悪そうに私から目を逸らした。
「……冗談だよ。……ちょっとした、意地悪のつもりで……」
「……」
「……嫌がると、思ってたんだけどな」
私の手が、力なく、先輩から離れる。
「……ひなちゃん。流石にここから先は……ちゃんと付き合ってる人とじゃないと、……ダメだよ」
ガツン、と頭を硬い何かで殴られたような感覚。
「……ごめんね。今のはちょっと、悪ノリしすぎた」
先輩の言葉が、刃物にでもなったみたいに、私の心を突き刺してくる。
「……っ」
ちよ先輩の体を力一杯押し返した。
不意をつけたのか、先輩の体はあっけなく私の上から退いた。
身を起こすと、ベッドから降りて、上履きを乱暴に履く。
「ひなちゃん」
先輩の声が、慌てて私を引き留めようとする。
「……ワガママ言って、ごめんなさい」
私は小さく言うと、先輩を振り返ることなく、逃げるようにその場を後にした。